ニューヨーク州 デラウェア川ウエストブランチ
キャッツキルに息づく伝統の証
「次の出口で高速を降りてください」というSiriの声で目が覚めました。助手席で地図を見ると、目的地まではあと数分。ニューヨーク州南部のキャッツキル山地にひっそりとたたずむ、伝説的なフィッシングロッジです。でこぼこ道の両側にはリバーバーチ(カバノキ)が並び、窓を下ろして外の空気を吸い込みました。ひんやりと澄んだ空気の中に、頭上に迫る春の雨の匂いがしました……すでに平年を上回っていた気温から解放される、ありがたい雨です。キャビンのフロントポーチでは、ウェーダーを履き、ラインをセットし終えた友人たちが待っていました。アッパーデラウェア川のウエストブランチに到着です。さあ、釣りの時間です。
婚約者と私は、ここ数年この川に通っている二人の友人に合流しました。最初の釣行ですっかり川に魅了された彼らは、時間さえあればここに戻ってきているそうです。ウエストブランチは、ここ東海岸で高い評価を受けている川です。警戒心が強く賢い、大型のブラウントラウトとレインボートラウトを狙う大河川の釣り。極めてテクニカルなドライフライフィッシングは全米からアングラーを引きつけ、どれほど経験豊富なフライフィッシャーでも謙虚にさせられる川として知られています。多くの人から「期待は低く、気持ちは高く」と言われていました。
到着するなり、荷物もほとんど車に積んだまま川へ向かいました。天気はドライフライにうってつけ。曇り空に、ときおり山から雨が降っては去っていきます。その予測のつかなさは、ここの釣りとちょうど同じくらいでした。ライズや虫の動きを、じっと目を凝らして辛抱強く待ちます。2時間が過ぎ、さらにもう1時間。頭上ではハクトウワシが上昇気流に乗って舞っていました。きっと私たちと同じトラウトを探していたのでしょう。ウエストブランチの釣りには、待つ時間がつきものです。ベテランのアングラーたちは、たいてい川岸にキャンプチェアを置いて葉巻をくゆらせながら、次の大きなハッチを待っています。私はまだその域には達していません……たぶん来年には。
そのとき——鏡のような水面に、目の前15mほどのところで波紋が広がりました。その日最初のライズです。続いて水しぶき——今度は30mほど上流。さらにもう一つ、またもう一つ。釣りのスイッチが入ったのです。狙う魚を決め、動きを慎重に選びながら、静かに上流側へポジションを取りました。フィーディングレーンにそっとサルファーを落とし、きれいなダウンストリームのドリフトになるよう細心の注意を払います……反応なし。2投目、今度はさらに良いプレゼンテーションで。やはり反応なし。3回目のドリフトで、サルファーが水面から吸い込まれた瞬間に「合わせろ!!」という声が響きました……が、フッキングしませんでした。運の悪いことに、それがその日の午後、私に訪れた唯一のチャンスでした。釣りは、始まったときと同じくらい唐突に終わりました。すべてが静まりかえり、やがて雨が激しく降り出しました——Gore-Texに感謝です。



打ちのめされた私たちは、West Branch Angler Resortのキャビンに戻りました。完璧に手入れされた300エーカー(約121ha)の敷地には2マイル(約3.2km)のプライベートウォーターがあり、ニューヨーク州ハンコックの町からすぐの場所にあります。貸し出されているキャビンは25棟以上。こぢんまりとした寝室1つの「クラッシュパッド」から、30ft(約9m)の暖炉を備えたエグゼクティブタイプの大型キャビンまでそろっています。4人と1匹の私たちはクラッシュパッドを選びましたが、まさにぴったりでした。夕方のスピナーフォールを前にした午後には、たいていの人がフロントポーチに集まってビールを飲みながら、逃した魚の話に花を咲かせています。会話はキャビンからキャビンへと広がっていき、私たちにも話すことはたくさんありました。
友人たちは、フロートトリップのこと、水面を覆い尽くすようなハッチのこと、怪物級のブラウントラウトのこと、さらには昨年フライで釣り上げたというマスキーのことまで話して聞かせてくれました。彼らはウエストブランチのことを、子どもが夏休みのキャンプを思い出すときのような懐かしさを込めて語ります。近ごろではすっかり失われがちな、ノスタルジーに満ちた語り口でした。やがて私自身も、聞いてくれる人なら誰にでも同じような話をするようになるのです。
ウエストブランチをよく知らない方のために言うと、ここはまさに聖地です。東海岸屈指のドライフライフィッシャリー。豊富な虫、ワイルドトラウト、冷たい水がそろい、最高の釣りを生み出しています。業界でも指折りのガイドたちの本拠地でもあります。もし訪れる機会があれば、West Branch Angler Resortを通じてKevin CorserかAdam Franceschini(SAGEアンバサダー)とのトリップを予約することをおすすめします。予約がいっぱいでも心配はいりません。ここのガイドなら誰を選んでも間違いはありません。私たちは伝統的な「ドライフライ・オンリー」のスタイルでこの旅に臨みたかったので、5番のTROUT LLを数本持っていきました。まさにこうした状況のために作られた、SAGEのフラッグシップ・トラウトロッドです。数回キャストしただけでその品質の高さは明らかで、精密で繊細なプレゼンテーションにぴったりです。



私たちは合計4日間川に立ち、たくさんの魚を見つけました。ただ、食わせるとなるとまったく別の話です。私は一行の中でいちばん経験の浅い釣り人なので、一歩下がって、友人たちがお気に入りの川で釣る姿を見せてもらうという贅沢を味わいました。彼らは魚と川の両方についての知識を存分に発揮し、まさにお手本のような釣りを見せてくれました。マーチブラウンやサルファーを投げ、何尾かのブラウンとレインボーを掛けていきます。ドリフトボートが頻繁に通り過ぎていき、ちょっと立ち話をしていくガイドの半分は友人たちの顔見知りのようでした。
とはいえ、ウエストブランチでいちばん好きな時間帯は夕方です。スピナーフォールで魚が動き出し、光が薄れていくにつれて、多くのアングラーは自分のフライを——もちろんライズする魚も——見失っていきます。でも、楽しみは日が沈んでも終わりません。星が出ると、川は再び息を吹き返すのです。私たちは、ウエストブランチで新たなブームになっている「マウシング(ネズミフライの釣り)」に挑戦してみることにしました。SPECTRUM MAXリールにRIOのPredatorフライラインを巻き、SONIC 691-4で釣りました。マウスを投げるのにこれ以上のセットアップはありません。真夜中のミッションは空振りに終わりましたが、焚き火を囲み、冷えたビールを開けて、翌日のことを語り合う良い口実になりました。



ウエストブランチが多くの人にとって特別な場所である理由はよくわかります。穏やかで、刺激的で、近くの都市の喧騒から離れてひっそりとたたずんでいる。釣れない時間でさえ、「次の一尾」はすぐそこだという予感が私たちを川に引き留めます。ウエストブランチをこれほど魅力的にしている要素はいくつかあります。魚は賢く臆病で、一瞬にして活性が上がることがあり、そして自分の技術と経験が試されるのです。
最終日の朝、キャビンを片付けてトラックに荷物を積み込みました……前の晩のマウシングでウェーダーはまだ濡れたままでした。長い高速道路と都会の喧騒が待つ中、私たちはしぶしぶ帰路につきました。州を出る前には、もう次の釣行の計画まで立てていたと思います。一生に一度の魚を求めて、ここに戻ってくる日はそう遠くないはずです。川でお会いしましょう。



デラウェアのドライフライのためのパーフェクトセットアップ
アッパーデラウェアのテクニカルなドライフライ
テクニカルなドライフライフィッシングの真骨頂ともいえるアッパーデラウェア水系は、どれほど熟練したトラウトアングラーにとっても挑戦しがいのあるフィールドです。魚は臆病でスレきっており、ダウンストリームからの正確で繊細なプレゼンテーションが欠かせません。そこで登場するのがTROUT LL 590-4です。#16のサルファーを「足の痛い蝶」のようにそっと着水させ、6Xのティペットを守れるほどソフトでありながら、デラウェアに棲む大型のワイルドトラウトを取り込めるだけの粘り強さも備えています。SPECTRUM 5/6リールとElite RIO Gold WF5Fのフライラインを組み合わせたこのセットアップは、キャッツキルでライズを狙い撃つのに最適です。
ロッド:TROUT LL 590-4 リール:SPECTRUM 5/6 ライン:Elite RIO Gold WF5F



STEPHEN CATALANO
Stephen Catalanoは、バージニア州北部を拠点に活動するアドベンチャー&ライフスタイルフォトグラファーです。人と自然の関わりに焦点を当て、写真を通じてビジュアルストーリーを伝えています。2015年にフライフィッシングに魅了されて以来、ずっと自分のラインのもつれをほどき続けています。
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原文:Downstream and Dry(Sage/SAGE・Far Bank Enterprises、2021年9月8日)
写真:SAGE・Far Bank Enterprises
日本語訳:Fly Fishing Outfitters WALTON

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